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溶けた飴のようにぐったりとしながら、僕はアウさんに、例の店へいざなわれた。

「ここが君の所望の場所だよ、こげさん」
アウさんが掌を水平に流す仕草で、”入れ”と促す。
指し示す地下からは、ネオンの光と喧騒――いかがわしい猥雑な空気が、わずかに漏れていた。

そう。
今回の旅の最初の目的はスロットにて、九州への旅を豪華にするための資金を捻出すること。
そのために、事前にアウさんに下調べをしてもらっていたのだ。

恐る恐る階段をくだると、
薄暗く冷んやりとした地下の空気が茹った肌をなでた。
それと同時に、腹の奥に響く大音量のBGMが、耳朶をひっきりなしに叩き出し、
スロットから吐き出されるコインが独特の金属音を奏で始めた。

めまいがしそうなほど、騒がしい。
そのため、アウさんがなにやらパチンコの解説をしてくれているが、まったくといっていいほど聴こえない。
僕の耳に届く前に、厚い騒音にかき消される。
アウさんはしきりに口を動かしているが、残念ながら僕には読唇術の心得はなかったので、
結局何を言っているのかさっぱりわからなかった。
とりあえず、うなずき、わかりもしない了解の意思を伝えたら、
アウさんが暗い眼を泳がせながら、そっと札を二枚、僕の手の中に差し込んできた。

1万円札。2枚。
――これを軍資金にしろということか。
僕はそっとうなずき、歩き去るアウさんの背中を追った。

アウさんは迷いのない足取りで、整然と並ぶスロット台の間を縫っていく。
そして、ようやく一つの台の前に立ち、僕にそこに座るよう促した。

「これが、こげさんお望みの台…ひぐらしの泣く頃に、だ。あらかじめ場所はとっておいた。さあ、思う存分打つがいい。」

このこげという男は、重度のひぐらし厨である。
沙都子は眼に入れても痛くないほどかわいいんだよ!!とリアル妹に言い放つほどの重症である。
なので、もしスロットを打つ機会があるなら是非この台でと、アウさんに事前に頼んでおいたのだ。

…とはいえ、スロットなど一度も打ったことのないギャンブル素人の私。
2万円というそこそこの大金を一瞬で失いかねないこの鉄火場に、思わず喉をならさずにはいられなかった。
だが、そんな僕の懊悩をよそに、アウさんは事も無げに1万円札を台に吸い込ませる。

次の瞬間、大量のメダルが、ジャラジャラと軽快に、硬質の音を奏でながら受け皿に吐き出された。
――僕の記憶が確かなら、たしかメダルの換算は1枚20円。
すなわち、今この時よりあの2万円は1000発のメダルに置き換わったわけだ。

2万円の投資。
未だ学生の身分の僕からすれば、狂気を覚えざるを得ない暴挙だ。
――しかし、以前アウさんが教えてくれたことがある。
賭場を戦場とするならば、金は実弾。
いかに相手が瀕死でも、弾がなくなれば、トドメはさせない。
当たりが確定していても、メダルを撒き散らさせることはできない。
だから、必要なのだと。
うなるほどの弾が。山のように堆く積まれた、このメダルが。

それは同時に、今回のスロットが決して遊びでなく……勝ちに行かねばならぬ真剣勝負ということも示唆していた。
「ククク……まぁ、所詮は人の金よ。気ままに打てばいいさ。」
そう嘯くアウさんの眼は、決して笑っていない。
しくじれば許さない、そう眼が語っていた。



人体のチューニング機能というものは優れたもので、
打ち始めて10分も中で過ごしたら、既に周りの壮大な雑音は気にならなくなっていた。
ついでに、溶けるように目減りする残額も気にならなくなっていた。
麻痺していく…平常の感覚…!!
これがギャンブルの魔力…!!
気が付けば、既に残りの金はわずか3000円。
コンキリさんとの待ち合わせもあり、口惜しいが、ここでスロットは終了となった。


結果、僕とアウさんの収支合計……55000円の負け。
圧倒的敗北。
九州でのクルージングプランはもはや絶望的。
「イカサマッ…!!イカサマッ…!!うぅ…」
頬を濡らしながら換金するアウさんに、平謝りするこげ。
2匹の負け犬は沈痛な表情を浮かべたまま、大阪の町並みに消えていった……。
 
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