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「もし、あそこで支払いをゴネてたらどうなっていたんでしょうねぇ。」
「そりゃあ、来るだろう…。怖いお兄さんが…。」
「…というか既に店の中にいましたよね。後ろにいましたよね。」
「…もう何してもあの店に入った時点で詰んでたってことだねぇ…。」

僕達は20分で32000円という大金を失い、放心しながら、
日本橋の街を彷徨っていた。

「…次、どこ行きましょうか…」
気の無い様子で、それでも今の出来事を忘れようと、
アウさんが次の行き先に話の水を向ける。

「同人…買いに行きません?」
ボソリと鉄っちゃんがいかがわしい単語を吐き出す。
「そうだな、3次元はゴミっていう人の気持ちが俺もようやくわかった気がするよ…」
深い穴を抉られた僕も快諾する。
というわけで、僕達は一路虎の穴に行くことにした。
うん、なんだかんだで、東京だろうが大阪だろうがオフの度に毎回行ってる気がする。
――ちなみにらびっとさんは、こんな連中に付き合っていられるか!!私は一人で抵抗を見てくる!!…と、一人で電気部品を見にいってしまった。




虎の穴日本橋店。オレンジで統一された暖い内装だ。
その店の一角で、同人を一人の男の下に持ち寄って、
声を大にして採点している一団があった。
…僕達だ。


鉄っちゃんとアウさんが、僕の気に入る同人を推理し、探してきて、
僕が点数をつけるという誰得なゲームをしているのである。
ちなみに、僕が気に入っている同人を見つけたら、それを買うというルール。
制限時間はらびっとさんが来るまで。


アウさんが、首輪を施された獣耳の少女がぺたんと冷たい地下牢に腰を下ろしながら、上目遣いでこちらを見ている…そんな表紙の同人を差し出してきた。
「…30点」
僕はすかさず採点を施した。
「…何故ッ…これのどこがいけないというんですか!!コゲさん…ッ!!!」
「愚民に我が高尚な趣味を説明する舌を持たぬわ!!」
「…ぐっ…!!」

鉄っちゃんが、ファンタジーっぽいほわほわした絵柄のキレイな同人を差し出してきた。
パァン!!と投げ返してやろうかと思ったが、そこは抑えて冷たく言い放った。
「5点」
「ひ、ヒドイですよコゲさん!!」
「私はエロスを所望しているのだよ、鉄クズ君…そんな小奇麗な表紙に、何を期待するというのかね?」
「コゲさんの趣味はわからない…わからないな…」

…そんなやりとりが、延々と30分続いた。

ちなみに、なんだかんだでアウさんは僕のお目当ての一品を探し当てるという偉業を成し遂げたので僕はそれを買った。
あと、時間が余ったので、今度は鉄っちゃんの好みの同人を探すという流れになったりした。
アウさんはストパンで攻めるがあえなく撃沈していた。





…かなりかいつまんだが、今回の大阪オフの顛末はこんなものである。
なんだかんだで、回を重ねる度にネタ度…もとい内容が充実していくオフ。
アウさん、らびっとさん、鉄っちゃん、おつかれさまー。
アウさんの猫屋敷はまた行きたいナー。ねこー。
 
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第一のゲームの時に感じていた違和感の正体…それは、カードの枚数だ。
明らかに、少ないのだ。
52枚を7人で割ったら一人7~8枚になるはず。
…なのに、あのゲームでは、テーブルに配られた山の中に、ありえるはずのない6枚の山が存在したのだ。
…学生時代、毎日賭け大貧民をやっていたからか、カードのキズ、厚み…
…そういったわずかな差異には敏感なのだ。

つまり、意図的に枚数が減らされている。
カードセットから何枚か、メイドがあらかじめ抜いていたのだ。
何のために。
そんなの決まっている、2、8、JOKERといった強力な切り札を確保するためだ。

…メイドのエプロンドレスはひらひらとしたフリルといった禍々しい装飾が散りばめられ、
カードを隠しておく場所には不便しないだろう。
全員の手にカードが渡った後で、いけしゃあしゃあと、自分の手札に強豪カードを加えればいい。

…わかってみれば、単純な仕掛けだ。
思い出してみれば、学生時代にも、同じトリックを使ってきた奴がいたではないか。
ナゼもっと早く気付かなかったのか…改めて己の不覚に恥じ入るばかりだ。



だが、この第三のゲーム…今度は、目を皿のようにしてメイドから離さなかった。
そのせいか、カードをシャッフルしていたメイドは緊張したような面持ちで、そっとこちらから目を逸らしていた。
”不正は二度とさせない”そういう意図を込めて、刺すような視線を送る。
それが功を奏したのか、今度はカードの山には不審な点は見られない。
おそらくは、これで平の勝負になったはずだ。
これで、五分五分…今度は負けない。アウさん、らびっとさん、鉄っちゃん…それぞれに目で合図をし、
本気で敵の首を取りに行く、という覚悟を共有する。



ゲームは一進一退の攻防が繰り返された。
今度は僕や鉄っちゃんにもハイカードが集っており、すぐさま敵の手を切り伏せ、上がることができた。
だが、アウさんやらびっとさんはカードの揃いが悪いのかなかなか動けずにいた。

そして、ついに、アウさん・らびっとさん・メイドBの3人が残った。
既に場にはジョーカーが2枚、2が3枚、Aが3枚出ている。
ハイカードはほとんど無い。

そこで、メイドBがAで果敢に攻め、場が沸き立たせた。
メイドの手札は残り3枚。
…ここで退けば、最悪このまま8からの二枚出しで上がられる。

その時ふと、視界の端にアウさんの懊悩する顔が目に入った。
視線を落ち着き無く彷徨わせ、手札と敵の捨て札を交互に見やっている。
つまりは、迷う余地が…ある。切れる札が、あるのだ。
「アウさん、切れ…ッ。このままじゃ…終わるぞ…ッ。」
その表情が意味することを悟るや、すぐさま檄を飛ばした。

驚いた猫のように目を見開き、こっちを見ながら、おたおたするアウさん。
「…いいんですか?これで切られたらアウさんもうムリだよ!!」
大丈夫。既にジョーカーは2枚出ている。
アウさんの2が切られることは――有り得ない。


アウさんが、メイドのAの上に、渾身の力を込めて2を叩き付けた。
大丈夫。流れは掴んだ…勝てる。
そう確信した瞬間、アウさんの2の上に新たなカードが被せられた。
メイドが、切ってきたのだ。

そして、あれよあれよという間に、メイドは残りのカードを吐き出し…勝ち抜けた。



僕は目を白黒させた。
何故なら、メイドが切ったカードはJOKER。
既に場に2枚出ており、本来あるはずのない3枚目のJOKERだったのだ。
これ以上無い明らかなイカサマ。証拠も目の前にある。
だが、抗議の隙を与えるつもりもないのか、メイド共はわざとらしく勝利に沸いて、騒いでいる。
アウさんも、らびっとさんも、何が起こったのかわからないといった表情で、
目の前の捨て札の山を見ていた。
この状況は僕達の驕りが招いたのかもしれない。
もしこの状況を見越して、常にお守りとしてポケットにJOKERを仕込んでおけば…助かったのだ、僕達は。



そして、呆然とする僕達に、容赦無く罰が下される。
「それじゃあ、負けたご主人様達にお願いですぅ。私達に何かおごってくださいぃ。」
…正直、何だその程度でいいのか。と思った。
この店のメニューなら3人に奢っても3000円いくかいかないかだろう。

それが、何と希望に満ち溢れた解釈だったのかと、僕達はすぐに知ることになる。
「あ、でもぉ。メイドの場合特別料金でぇ、一人4000円プラスされるんですぅ。」
お前達はいますぐ窓から落ちろ。
お願いします。落ちてください。
何の罪悪感も交じらぬ笑顔で、平然とそんな戯言を抜かしやがる生き物がそこにはいた。

黄色い声でさえずりながら、メイド共が顔を合わせてメニューを選ぶ。
私これがいいなー、と遠慮も無くよりによって高額の品を頼む。
そこで切って返すように言ったのはアウさんだった。
「すみませんが、一番安いヤツで我慢してくれませんかねぇ…?」
男らしい一言だった。
……わずかだが、僕達は一矢報いた気がした。


メイドどもが貪り食っている間に、入り口付近で会計が行われていた。
とりあえず、らびっとさんが代表して払うことになり、僕達はまだソファーに腰をおろしていた。
「では…お会計32000円ですぅ」

!?

少年マガジンばりに、僕達の脳裏に、エクスクラメーションマークとクエスチョンマークが乱舞した。
空耳か、聞き間違えかと疑いながら、勢い良く首を回転させ、入り口の方に目を向けた。
…一体どんな計算したら、20分で32000円にも至るのか。
らびっとさんは実際にちゃんと…諭吉を3枚財布から出していた…。
もし、僕達の中の誰か一人でもメイド喫茶の相場を知っていれば、この事態が異常であることに気付いただろう。
だが、悲劇的なことに、誰もいなかったのだ。
だから、メイド喫茶って…こんなもんなんだ…と、無理矢理、自分の中の疑問と恐怖をねじ伏せるように、納得するしかなかった。


帰りのエレベーターが閉まる瞬間。メイド達が整列して言い放った。
「では、ご主人様、行ってらっしゃいませぇ」
僕は苦々しい表情を浮かべながら、手を振った。
扉が閉まる瞬間…隣のらびっとさんは、
「二度と来るか…ッ」
…呻くようにつぶやいていた。殺意の咆哮だった。






閑話休題…というかオチ。

オフが終わってから、ネットで調べた所…
僕達が入ったメイド喫茶は、”日本メイド喫茶ランキングワースト1”という称号を持ち、
専用スレがいくつも立っている悪名高い店だったことが判明した。
大貧民がどうこうではなく…僕達は、この店を選んだ時点で、既に最悪のヒキだったということである。
 
その爪には、けばけばしいネイルアートが施されていた。
ラメがふんだんにちりばめられ、毒々しい光沢を放っている。
あの爪には…神経毒が含まれている…ッと怯えるアウさんをよそに、
場は沸き立ち、その毒爪メイドはカードゲームの準備を滞りなく進めている。

リビングガラステーブルの上に、7つの山――参加者の数だけ、軽快に伏せられていくカード。
卓を囲み居流れる我々とメイド達は、ぎこちない談話をこなしつつも、
さりげなく配られたカードに視線を注いでいる。
特に、メイド共は化粧で隠しているつもりだろうが、
まるでカードの表面が焦げ付きそうなぐらいの、激しい目線を送っている。
…それもやむをえないだろう。
なにせ、これは実質、金のかかったゲーム……
知略長け、他者を出し抜くものが勝つ戦場なのだから――。



さきほど、メイド提示してきたカードゲームの種目、それは、大貧民だった。
学生時代誰もがやっただろう、強いカードで場を切り流し、主導権を握り、
最初にカードを使い切ったヤツが勝ちという、先行逃げ切り型のゲームだ。
こんなものでも、特に共通の話題がない場の潤滑剤にはなるだろう。
そんなことを思っていると、ただの余興ではつまらぬと、メイド達がある条件を提示してきた。

「ご主人様達が勝ったらぁ…私達と一緒に写真を撮れる権利をあげますぅ。
 でもぉ、私達が勝ったら…ちょっとしたお願いを聞いてもらいますぅ。」

「ご主人様達って事は…チーム戦…ということか?」

「はい。なかなかご理解が早いですぅ。最後に残った一人がご主人様方の誰かなら、私達の勝ち。
 最後に残った一人が私達メイドの中の誰かなら、ご主人様達の勝ち、という具合ですぅ。」

「なるほど…いいでしょう。」

この時…ちょっとしたお願い、の内容をしっかり聞いておかなかったのは僕達のミスかもしれない。
しかし、日々マージャンで勝負勘を鍛えている我々に、敗北はないという驕りがあったのだから致し方なかったのだ。



…そういうわけで、今に至る。
カードはキチンと人数分の山に配り終えられ、それぞれがこぞってお目当ての山を机から剥ぎ取る。
この時、カードに対してふと言い知れぬ違和感を感じたのだが、その場は、
ただ慣れない場所でのゲームだからだろう、とさほど気にはしていなかった。

僕が選んだカードセットは…正直、微妙だった。
2やJOKERの、切り札と呼べるカードは一切無く、トップ上がりは諦めざるをえない手札だった。
…とはいえ、このゲームはチーム戦。
要は、ビリにさえならなければいいのだ。
他のメンバーのカードが良ければ、さほど問題ではないだろう。
そう考え、思案するふりをしながら、皆の顔色を伺ってみると…
どうも、鉄っちゃんの表情が芳しくない。
苦虫を噛み潰したように、頬をゆがめている。
「…配牌、悪いのかね鉄っちゃん」
「ええ、これは、ムリです…」
諦観の念を隠そうともしない。
これは、僕の聞き方も悪かったのだろう。
だが…なんというか、更に悪いことに、
…その言葉を聞いて、メイド共が嗤った気がしたのだ。
そこで、彼女達の表情を冷静に観察していれば、気付けたかもしれない。
それが、”鉄っちゃんのヒキの悪さを笑った”のではなく、”勝ちを確信したゆるい嘲け笑い”であったことに。


その予感が当たったのか、ゲームは終始メイド共のぺースで進んだ。
アウさんやらびっとさんが強気にKやAで場を流そうとしても、すぐさまそれを蹂躙するかのように、
2やJOKERが飛び交い、主導権をもっていかれてしまう。
「ぐっ…ナゼダ。ナゼそこで切ってくる…!」
まあ、チーム戦なら相手方の攻勢をつぶすのは常套手段だが…それにしては、
こいつら、”強いカードを持ちすぎている”。
今回のルールでは、”縛り”や”階段”などのローカルルールが無いため、
3,4,5…といったローカードの処分が非常にしづらい。
そして、ナゼか”8切り”だけがルールとして残っているので…
普段よりも2や8の威力が大きい。
正直、ハイカードや8を取り揃えたプレイヤーへの対抗手段はないと言って良いだろう。


そこにきて、このメイド達の手札の豪華さである。
奴等は惜しげもなくハイカードで押しつぶそうとしてくる。
その暴風のようなメイドの攻勢に、なす術もなく僕達は敗れた。
しかも、最後に残ったのが僕と鉄っちゃん…どちらも客組という、
どうしようもないほどの負けっぷりだ。


「もう一度…やりますぅ?」
打ちひしがれる僕達の様子を見て、哀れむような声で、メイドが提案してきた。
「やらいでか!!11」
すぐさま応と叫び、了承する。

だが、その後も1ゲーム目とほぼ同様の展開で、
メイド共は2、8で場を容赦無く切り裂き、颯爽と上がっていく。
またも圧敗。
流石に、アウさんもこの異変に気付いたようで、不審気な眼でメイド共を睨んでいた。


僕は、すぐさまジェスチャーで、アウさんにイカサマの確認を取る。
だが、アウさんには伝わっていなかったうようで、とぼけた表情で宙を仰ぐのみだった。
きっと、またマロチのことでも考えているのだろう。アウさんの猫脳!!



…仕方なく、僕は単独で奴等のイカサマを暴こうとした。

まず考えられるのは、”ガン札”……
すなわちカードの裏面の傷・汚れ・微妙な差異で、そのスーツ・数値をメイド共は判別しているという可能性だ。
だが、そもそもそれを防ぐために、1ゲーム目から、
配られた山札を常に僕が最初に取れるように構えていたのだ。
さらに、取る山も自分に一番近いものでなく、配ったメイドの前のものを取るようにしていた。
メイドが、カード配りの時に、自分の所にいいカードを集める可能性を疑っていたからだ。

…しかし、実際はさきほど伝えた通り、手札は微妙と言うしかないものだった。
この結果から、配っていたメイドが、意図的にカードを選別していた可能性は…ほぼないと思われる。


では、他の方法は?
…新たに逡巡しようとした刹那、今しがた配られた3ゲーム目のカードの山が、視界に飛び込んできた。
1ゲーム目からまとわりついていた違和感が、再び首をもたげる。
今度はその感覚を真摯に受け止め、目を凝らして見極めようとした。

そして、次の瞬間。
メイド達が山に手を伸ばした時…コゲに電撃走る…!!
「…そうか。そういうことだったのか」
搾り出すように、自分達の愚かさを呪うように呟いた。

甘ったるい声を吐くわりに…随分えげつない手を使うじゃあないかメイド共め。
心中で唾棄しながら、今理解したメイドのイカサマを思う。

そして、最後のゲームが始まった。
 
そのメイド喫茶は、狭い、猫の額ほどの土地に建てられたビルの5階に店を構えていた。
部屋の中に窓は一切無く、限り無く脱出しづらい、密室。
テーブルやソファ…調度品はメイドに劣らず安物で、高校の学園祭レベルといっても差し支えない。
だが、僕もアウさんもらびっとさんも鉄ちゃんも、メイド初体験だったので相場というものを知らず、ここがどの程度のランクの店か、判断がつかなかった。

ソファに座るよう促され、僕達は間にメイドが入れるように間隔を開けて席につく。
しばらくすると、虫がわくようにどこからかメイドが4,5人現れ、
僕達の前に整然と並びだす。
わけもわからず僕達が慌てふためいていると、
「では、今から歓迎の踊りをさせていただきますぅ」
と、連中が甘ったるい声色を奏でた。
間髪入れず、彼女達は脳が腐っていなければとても吐けない痛々しい歌詞を紡ぎながら、奇妙なダンスを踊りだす。
歌詞から判断するに歓迎されているらしいが、
彼女達の奇怪な言動を見ているだけで精神が削り取られる。
とても直視できない。

視界の端に写る、他の皆の様子を探ってみると……

アウさんは、普段の快活な笑顔をどこに置いてきたのだろうか…
何者をも寄せ付けないアンニュイな表情を顔に貼り付けていた。
第一話の、犯人に興味を亡くした後のネウロみたいな、あんな顔だ。

らびっとさんは、こういう状況にもしかしたら慣れているのか
苦々しく笑いながらも、愛想をなんとか取り繕おうとしていた。

鉄っちゃんは刺すような視線で、まるで値踏みするかのように、
フリルをひらめかせ舞い踊る奇妙な生き物を睨んでいた。

僕はいつ誰が飛び出して目の前の生き物を殴打するか、
期待しながら、そっと様子を見守っていた。



残念なことに、誰も動きを見せず、奴等の奇怪な舞踊は終わった。
そのまま流れるように、彼女達は店の各所に散っていく。

何人かは、僕達の間に陣取り、
「メニューはぁ、こちらになりますぅ。ご主人様」
…と如才なく接客モードに入っていた。

僕と、隣に座っていた鉄っちゃんは揃ってメニュー表に視線を下ろした。
まず、メイド喫茶の定番…オムライス、900円が目に入った。
オムライスとしては若干高めだが、この程度割高なのは予想していたこと、
別段驚きもしなかった。
とはいえ、味がさほどうまくないのも簡単に予想できたため、
僕と鉄っちゃんは無難にケーキを頼んだ。

これは正解だった。アウさんとらびっとさんは無警戒にもオムライスを選んだのだが、その息が詰まりそうな表情、そして無惨にも食べ残され、散らかった赤いライスが、その味を物語っていた。
一方、ケーキは特に大したこと無かったが普通にケーキだった。



それぞれ一通り注文した料理に手をつけると、
メイドと名乗る奇妙な生き物に、更にコースの選択を迫られた。
料理と同じメニュー表に記載されており、

■たのしくお喋りコース 1500円
■たのしくカードゲーム 1500円
■耳掃除        2000円

…というラインナップだった。
「この耳掃除って…どう考えても地雷ですよね」
「…だな。なんだかんだで言いがかりつけられて余分な金をせしめられそうな気配がぷんぷんするぜ…!」
「とはいえ、僕達特にこのメイド達と話すことないですよね」
「…そもそも接客態度最悪だしね。…なんで今同僚同士で、業務連絡交換してるんだよ。」

…というわけで、無難(と判断した)カードゲームコースを選ぶ。
…だが、既に僕達は罠に嵌っていたのだ。
二重三重に張り巡らされた、料金搾取の罠…
もし、この時見抜けていれば、僕達はまだ助かっていたのかもしれない…。
日本橋。
大阪の秋葉原と名高い、粗野にして旺盛な電気街である。
すれ違う人々の顔は、
この街に何かを期待するかのような物欲しげな顔、
同人グッズを買いあさり下卑た妄想に浸った顔、
…何にせよ、泥臭い欲望に満ち満ちている。

それに応えるかのように、店のラインナップも通常の街とは色を変えている。
たとえば、後で入ったゲームセンターなどは、その景品の全てが抱き枕や卑猥なフィギュアで、
清貧を旨とする僕やアウさんは思わず顔をしかめたほどだ。
「この街は、罪深いですね。愚かといっていい。ダメな街だ。」
事も無げに、吐き捨てた。


いつの間にか雨脚は遠のき、湿気た空気や濡れそぼった路上に痕跡を残すのみである。
そんな中、安っぽいフリルを目一杯あしらった、奇妙なエプロンドレスを纏った女達が、十字路を右往左往しながら、客引きをしているのが目に留まった。
雨が降りしきっていた頃からずっとチラシを配っていたのか、
裾がにわかに濡れている。
僕は風俗業というただれた職種は軽蔑していたので、
その眷属である、メイドという偽りの可愛さを振りまこうとしてなおかつ失敗している痛々しい連中に関わるのはご御免だったが、
大恩あるアウさんの欲求となれば致し方あるまいと、その一団に近づき、チラシをもらう。
手渡されたチラシはどれも明らかに安物で、なにやらキャラクターが印刷されているが、ほとんどかすれて判別がつかない。
ただ、その中の一つに記載された、【100円引き】という文字に、
僕は目を留めた。
「アウさん、ここ、100円引きですってよ!」
「いいですね。そこにしましょう!」
快諾するアウさん。
その様子を遠くから聞き耳立てていたのか、
その店のメイドが走り寄ってきて、案内を申し出る。
僕らは渡りに船と、お願いした。
こうして、この日、吉日、僕達のメイド喫茶体験学習は幕を開けたのである。



さて、ところで
ザルやカゴを細い棒で支えて仕掛ける罠――よく鳥を捕獲するさいに使うアレを皆様御存知だろうか。
あんな簡素で見え見えの罠に引っ掛かる獣を、
”知恵がない獣などこんなもの”、と僕達は嘲弄しますが……
しかし、そんな資格はもしかしたら、僕達にはないのかもしれません。
何故なら、その程度の仕掛けに、僕達もひっかかったのだから。
100円というエサに目を奪われ、すぐそばで手薬煉ひいているエプロンドレスのハンターの腐臭に、まったく気付かなかったのだから。
 
まるで男は黒に染まれと言わんばかりに、上から下まで黒で服飾を統一した男がこちらに近づいてきた。
男は目深に被ったオシャレハットをくいと上げると、その下から見知った顔を覗かせた。
「待たせたな」
らびっとさんだ。待ち人来る。
揃った我々は、予約していた映画館にいそいそ足を運んだ。



映画は”13人の刺客”。

悪い奴がこの上なくえげつなくてとてもマーベラスでした。
四肢・舌切断レイプや寝取りレイプ殺人、人間を的にした弓撃ちなどといった、悪逆非道を冒頭から容赦無く繰り広げる稲垣吾郎。
決して快楽に浸るわけでもなく、淡々と悪行を繰り返すその様は、実に狂気を帯びていた。
しかし、四肢切断は2Dだとワクワクするけど3Dだと見れたもんじゃないなー。

また、13vs70という戦力差を覆すために、宿場町まるまる一つを刻命館みたいなトラップフィールドに改造する侍達が胸熱。
そりゃあいくら頭数で圧倒してようが、
街に入っていきなり樹木で厚く編まれた謎の壁に閉じ込められたら判断力無くなるというもの。
あんな大重量の壁どうやって動かしてたんだという謎はさておき、
その上で、屋根の上から弓でひたすら射って敵の数を減らしていくのは
数の差を覆す戦術としては有効だよなー。
そこまで最善を尽くした上で、敵が予想外の援軍を連れてて実は200人だったから、仕方なく近接格闘に移行しなきゃならなくなるという流れは秀逸。
実際、弓を打ち終えた段階で”残り130人ぐらいか…”と言ってるから、キッチリ当初の敵兵総数70人は殺しきってるんだよ主人公達。
ただ、戦術の移行が”仕方なく”でなく、主人公が”小細工はここまでだ!!”といって、急に屋根から飛び降りるのがちょっといただけなかった。
最後まで一方的に敵をいたぶれる、高さのアドバンテージを手放すべきじゃないだろうよー。

まあ所々不満はあったけども、思った以上に見所の多い映画だったのだぜ。




今しがた観てきた作品の批評をしながら僕達は映画館を後にする。
「これは…本気のホームアローンだな…。」
これはアウさんの批評。
「あの殺陣の繋ぎ方はやはり時代劇の真骨頂だね。洋画の剣劇シーンじゃああはいかないよ」
この山岡さんのような一歩高みの目線を備えているのはらびっとさん。
じつに玄人目線で僕とアウさんは己の教養の無さを恥じ入るばかりでござる。

そんなこんなで、次に今オフ最後のパーティーキャラ、
鉄っちゃんとのランデブーポイントを探しになんば駅近郊を駆け回る。
何度か連絡をとって折り合いをつけ、ようやく合流。

鉄っちゃんは、特に変わってなかった。
顔の線は相変わらず細いし、猛禽類のような眼の切れも衰えていない。
修練を怠っていないのは、一目でわかった。
らびっとさんと同じく、全身を黒で固めたその出で立ちは、
二人揃うと暗黒実行部隊といった有様だったが、
あえてその評価を口に出すのは辞めておいた。


そして、挨拶が済んだ隙間を縫って、アウさんがそっと、さりげなく呟く。
「さて、ではメイド喫茶に行きませんか?」

さあ、ここからが本当の地獄だ。
 
アウさんの家は思った以上に寝やすく、ぐっすり寝入ってしまった。
なんだかなで泊まり慣れてきたので、良くも悪くも人の家だからと
緊張しなくなってきたコゲさん。


朝目が覚めると、マロチが僕の口膣に舌を挿入し、激しく絡ませていた。
「マロチ、それはあかん」
そっと引き剥がし、思わず冷静にたしなめる。
「マロチは淫乱やね」
背後から、アウさんもきつく叱った。

しばらくして、寝ぼけ眼で頭を揺らし、視線を巡らすと、アウさんがじっとこちらを向いていた。
その表情に込められたものが何なのか、今の僕にはわからなかった。



アウさんの母上殿が用意してくれた朝食をいただき、
降りしきる雨の中、アウ邸宅を後にする。
チー、モモ、マロチ、ナナ…その他含め14匹の猫が、
代わる代わる僕たちを見送った。
この歳になると、人の実家にお邪魔するというのは実に奇妙な感覚なのだが、
そう悪いものではないのだ。
普段は見えない、おのずと隠されている誰かの意外な内側を覗く。
それは心地良い発見なのだ。
そういえば、初めての訪問の割りに、
我ながら、妙に落ち着いていたなぁと思い返すと――
長年の家庭教師業が効いていたのかもしれない。
僕はアウさんの教育をしに来たのかもしれない。

そんなこんなで、
前人未到の魔境カサンドラ――その最初の訪問者になったことを、
僕は誇りに思いながら、アウさんと共に曲がりくねる山道を下りていった。






もし、ここで終わっていたら、この後の悲劇は起こらなかったのかもしれない。
だが、既に起こってしまったものはどうしようもないのだ。
それは偶然か。はたまた誰かの悪意がもたらした必然か。
澱んだ街角で、僕達は出会った。
 
そこは、白亜を基調とした落ち着いた部屋だった。
部屋の一角に、エサ入れの容器、猫用のトイレ、さらには扉の下方に小さな穴――おそらく、
猫通過用の穴が空いていることから、
この部屋は、決してアウさんではなく、猫のための部屋であることが察せられる。

事実、戸棚の上やクローゼットの中、部屋の隅のあちこちに、
猫が陣取っていた。まるでこの部屋の所有権を主張するかのように堂々と。

アウさんは棚の上の一匹に近づくと、勢い良くなでまわし、甘やかす。
どうやら、アウさんは本当に、猫をかわいがっているようだった。


コゲさんは、とりあえず布団をしいてもらい横になった。
あまりにも色んなことがありすぎて、疲れていたのだ。
寝ている間、布団の上をマロチが通過したり、中にもぐってきたりした。
なるほど、こういう仕草に、人間は可愛さを覚えるのかもしれない。

旧世紀の頃から、猫は人の友だったという。
中国に伝わる猫と虎と豹の逸話――豹と虎は野生の獣を飼って暮らしていけるが、猫は人のためにネズミをとるぐらいしか能がない、というオチのお話――にも見られるように、猫という動物は、人に愛されるという状態そのものが生態なのだろう。
それ故に、”人間が愛しさを覚えるような動物”として進化してきた…その結果がこの仕草なのだと、僕は思う。



それはさておき、僕がマロチと戯れている間、
アウさんには制作をお願いした。
そこは流石アウさん、見事なお手並み。
みるみるデータが詰まっていく。
おかげさまで10月中の完成にも目処がたちました。

それに、やはり目の前で作ってもらったり、作った作品の感想をその場で言ってもらえるのは、
格別だよなぁと思うのである。


他にもその夜には色んなことがあったのだけれども、
ここでは割愛。
アウさんの部屋には内緒が多いのだよ。
 
「チーもおるで!!」
奇妙な声が隣で爆ぜた。
あまりの声色の違いに、最初誰だかわからなかった。
だが、その声の主はまぎれもなくアウさんだった。
彼は、そのまま諸手を広げ、襲い掛かる仕草をしながらマロチと共に、
廊下の奥へ消えていった。
…あれが、来年30になる男の姿か…。
僕は感慨深く頷きながら、アウさん(29)を見送った。


玄関に取り残された僕は、途方にくれながらも、
「お邪魔しまーす」と挨拶を忘れず、
いそいそとクロックスを脱ぎカサンドラへの第一歩を踏み出した。
床は鏡のように磨き上げられたフローリング。
だが、よく覗き込むと、所々に細い毛が落ちている。

そのことに気がつくと、あちこちから視線を向けられていることに気付く。
ドアの隙間から、チェストの影から、ぎらつく双眸が僕の方を捉えていた。
あちこちに潜む猫。猫。猫。
ここが、間違いなくカサンドラだと、僕は意識せざるを得なかった。


リビングに伸びる廊下をゆったりとした歩幅で、進む。
今までのお泊りオフと違い、今回は、アウさんの”実家”にお邪魔しているわけで……当然ながら、御家族の方と顔を合わせることになる。
この歳になると、お泊りといえば、たいがい友人の下宿やアパートで、
あまりその家族にまで顔を合わせることはなくなってくる。
そういうわけで、僕はわずかに緊張していた。


リビングは広く風通しのいい空間が創られていた。
そして、アウ家の温かな団欒がそこには満ちていた。
母上殿は、穏やかな笑みをたたえながらこの闖入者を出迎えてくれた。
張りのある快活な声からは、壮健さが伺える。
後から来た父上殿は、いつもアウさんが怒られているのを聞いているため、
厳格な昔ながらの人物像を想定していたが、以外にもその表情は柔和で、
父の包容力に満ち溢れていた。
そして、まさかのアウ姉登場。
これにはアウさんも驚いたらしく、何でお姉ちゃんいるん!?としきりに繰り返していた。
姉上殿は、見目麗しいだけでなく、会話の端にも利発さをにじませ、才女といった風情を醸し出してた。

これが、アウさんの御家族か…。なるほど、こういう温かな家庭で育てば、
アウさんのような自由闊達な気風の男が出来上がるのだろうな…と、頷く。


お土産のうなぎパイをお渡しし、いくらか談話を紡ぎ、
アウ家の食卓につかせていただく。
その日は、アウさんの母上殿が手巻き寿司を振舞ってくれた。
こういう時に、僕は何と言葉を紡げばいいのかわからなかったのだが、
謝意をうまく伝えられただろうか。おいしかったです。
ちなみにアウさんはひたすらソーセーズだけ貪られていた。


そして、夕食をすませた我々は、前人未到の地・アウさんの部屋へと侵攻した。
そこには……。
いつの間にか日は落ち、あたりは暗くなっていた。
雨もだんだんとひどくなってくる。
寸断無くフロントガラスを叩き、小気味良い雨音を奏でていた。

山道は細く曲がりくねっている。
既に街から山に入って30分…。
山陰に入ったせいか、妙に風景が陰気になってきた感じがする。
この暗くしげった木立ちの奥で、誰かが死体を埋めるために穴を掘っている…そんなことを想像させる、暗く飲み込まれそうな山間の闇だった。

僕は全身の力を抜き、シートにもたれかかった。
慣れないパチンコ梯子で、身体の芯に疲れが溜まっていたのだ。
ふと運転席を除き見ると、アウさんがニヤニヤと口角を歪ませながら、
ハンドルを固く握っている。
その顔には疲労の色は見えない。
いつも皆にまったくアウさんはこれだから…と揶揄されているが、
実際のアウさんは、頼りになる男だ。
横目でじっと、つい見つめてしまった。

「もうすぐよ着きますよ、コゲさん」
その目線に気付いたのか否か、アウさんがそっと声を立てた。
あたりを見回すと、明かりはほとんどない。
完全な山奥だ。
車のヘッドライトが壊れれば、
間違いなくガードレールを突っ切って、崖から落ちるだろう。
こんな所に……人が住んでいる所があるのだろうか。
僕はその疑念を振り払うことはできなかった。

だが、しばらくすると、山の斜線の向こうに小さな明かりが揺れて見えた。
それも1つではない。
いくつかの淡い光が折り重なり、まるでその区画自らが光っているかのようだった。

「こんな山奥に住宅街が…あるだと…」
僕は呻くようにつぶやいた。
アウさんは、慣れた手付きでクラッチを切り、速度を落としてから、狭い路地を潜り抜けていく。
窓の外を流れていく家々に驚いていると、
「着きましたよ」
と、アウさんが声をかけた。

視線をめぐらせると、そこはたしかに……以前写真で見た家だった。
猫脱獄防止用の白い柵、庭に陣取るログハウス。
だが、写真に写されていたそれはあくまで一部だったようだ。
本体は、まぎれもなく近代住宅の一軒屋……西洋風の落ち着きのある外観デザインだ。
外装は目立つような汚れもなく、おそらく建てられて10年も経っていないだろう。

小ぶりの門を潜り抜け、オーク調のシックな扉の前に立つ。
ここが、猫の泣く街…カサンドラ。
過去10年、誰も到達したことのない、禁断の地。
僕は万感の思いを篭めて、その扉をくぐった。

そして、僕を迎えたのは、トタトタと軽快な足音を立てて迫り来る猫――
かつて神剣の名を与えられし猫・マロチだった。
 
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