忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

アウカーで大阪の街を走りぬけ、山を切り開いて作ったであろうなだらかに上がっていく大通りに辿り着く。
昼飯はその通りにある鉄板焼き屋でいただくことにした。
待っている間、近況を報告しあったり(スカイプで毎日話しているので、近況も何もないわけだが)、人生・将来設計について語ったり、実はこの辺りはアウさんが幼き頃過ごした場所で、
その幼少時代に襲い掛かった年長者の脅迫に耐え抜いたという武勇伝を聞いたりする。

大阪の濃厚で原始的な味付けは私の舌を大いに満足させた。
特に前回のオフでいわくつきのえのきバターは存外美味でした。疑ってゴメンなさい。
さらに就職祝いにと、おごっていただきました。アリガトウございますー。


そして、食事を取り万全の体勢になった我々の向かう先は――パチンコ屋。
前回大敗を喫した我々が、ついに反旗を翻すのだ。

そこは奇妙なパチンコ屋だった。側頭から妙な羽を生やした奇怪なマスコットを、道路沿いの看板・店の入り口・店内ポスターなどにおいて、全面的に押し出している。
生理的嫌悪感を醸し出すその造形……一体このキャラクターを押し出すことで誰が得をするのだろうか。我々の疑問は絶えなかった。


しかし、その店の外装に反し、肝心のスロットの出足は好調。
稀代のパチプロ・アウさんの目利きにより、次々と当たり台を引き当てる…ッ!!
牙狼においては、席の後ろに箱が積まれ店の人がポップを置くというよくマンガで見るあの光景を実現…!!
この射幸感…!!今なら人類の全ての罪を赦せる圧倒的な優位感…!!
これが…これが勝つということなのか…ッ!!

まあでも今回のはアウさんという半ばチートキャラが傍で指示してくれたのと、運が味方してくれたからであって、次は無いなと判断。
とりあえずはひぐらしの借りを返せて満足。もうギャンブルはしないよ!!

というわけで、ガイアメモリみたいなスティックを小窓に差し出したらお札が返ってくるという謎の錬金術を体験。
\マネー!/


そして、足を浮き立たせながら温泉へ。


アウさんの身体に刻み込まれた傷と、そこに秘められた悲しい逸話を聞いたり、お互いのダイエット企画の進捗報告をしたりする。
アウさんは着実に減ってたけどコゲさんはむしろ増えてた。ナズェダ!!


そして、スーパーで泡銭をちらつかせながら買い物をした後、ついにアウ亭に向かう…!!!
 
PR
朝靄がけぶる中、安倍川駅に向けて自転車をこぎ進めた。
片道20分の道程をたどり、人気のない閑散とした安倍川駅に着く。
相変わらずこじんまりとした駅内は、自動券売機のシャッターも降り、自動改札機が動くのみ。
早朝5時。始発前のこの時間に人がいるわけもない。


何故、私はこんな時間に駅にいるのかといえば……大阪に行くためだ。
大阪にあるアウ家に潜入するためだ。
資金難のため、新幹線も使えず仕方なく鈍行で静岡から大阪への長い旅路を選択することと相成ったわけだ。


しかし、始発までのわずかな時間、ホームで待っていると、一つ何かを忘れていることに気付く。
慌ててポケットをまさぐるが、そこにあるべきものがない。
フラッシュメモリ――今回の目的の一つ、アウ家にて共同制作を果たすための情報媒体が、失われていた。
否、普通に家のパソコンに挿入したまま置いてきてしまったのだ。


逡巡した。このまま定刻通りに着くのと、多少遅れてでも必要物品を持っていくのと……どちらを選ぶべきだろうか。
しばし悩んだ末、後者を選んだ。
大丈夫、アウさんなら私が遅れることぐらい予想できるだろう…。そうたかをくくって。


再び片道20分×2=40分の道程を制覇し、安倍川駅に舞い降りる。手には今しがたとってきたフラッシュメモリを握り締めて。
丁度、始発の次の電車が来た所だった。慌てて飛び乗り、息をつく。



しかし、40分の遅れは流石にマズイ。そう思ってアウさんに連絡しようと考える。
だが、未だ早朝……起こすのはどうだろうか、と電話をするのは思いとどまる。
そこでメールを打とうとするが、送る直前、以前教えてもらったアウさんのメアドを登録し忘れていたことに気付く。
電話は割りと普段良くしてたけど、テキストなら普通にスカイプやらメッセやらで送るので今まで使う機会がほとんどなかったからなぁ。


しばらくして、代替案として、つい最近導入したtwitterなるものを思いつく。
遅れる旨を記しつつ、これで一安心と胸をなでおろす。


電車の中ではいつも小説を読んで過ごすのだけれども、この日は寝不足だったので、ちょっと読む気力もなく、
そのままtwitterを眺めてしばらく過ごす。
わじこったの制作における嘆きのおかげで愉快に時を過ごせました。ありがとう。


島田あたりで読み終えたので、丁度同じく京都に向かっていた鉄っちゃんとともにtwitterで会話する。
おそらく来年もあるであろうリレーRPGの是非についてやんややんやと。
ちょうど昨日のtwitterでもなすーと鉄っちゃんが言及してたりするホットな話題。


そんなこんなで、昼前には大阪に到着。粗野だが活気に溢れた街並みだと思う。嫌いじゃないのだぜ。
そして、アウさんに連絡を取り、駅前のタクシー乗り場まで車で迎えに来てもらう。


「やあコゲさん?1時間も待ちましたよ?どうして連絡してくれないのかな?かな?」
私は、やや不審に思いながらその言葉に異を唱えた。
「いやはや、遅れてしまい申し訳ない。メモリを取りに一度帰ったり、電車が遅れたりしましてね…。しかし、私は事前にtwitterなるもので遅れる旨をお伝えしたはずですが…」
その返答に、すぐさま苦笑いしながら、
「車運転しながら待機してるのにtwitterなんて見れるわけないだろうが…ッ!!バカッ!!バカッ!!コゲさんは迂闊…!!」
さらに、車を発進させながら
「前に大阪に来たときは30分、今度は1時間…さぁて、次は何分アウさんを待たせるのかな…?かな…?」
と続ける。

ゴメンね。コゲさんいつも迂闊でゴメンね。
 
わずかに澱みながらも、翠色に照り返す佐世保の海は、
僕達の夏心を刺激するのに十分な景観だった。

だが、残念なことに、8月も既に末――海水浴場の開放期間は終わっており、
僕達以外に人はいなかった。
水がしたたる水着姿のようじょもおねーさんもいなかったのだ。

それ故にか、僕達の胸には寂寥感が溢れ出し、
その情動を振り切るかのごとく、海に向かって走り出したのだ。

皆で蟹を追い掛け回した。
海に入り、熊のように掌で魚を陸に打ち上げようとした。
離れ小島の社の裏の崖で、たそがれたりした。

これが、僕達負け犬の、ささやかな夏の終わりだった。




鉄ったんは佐世保に残り、フィギュアを漁ろうとしていた。

ゾンリさんは、福岡に戻り、決意を持って残りの人生を漫画にかける意気込みを見せた。

アウさんは、疲れていた。
でも途中まで僕を送ってくれた。アリガトウ。

僕はその日、静岡に帰れなかった。
新大阪のネカフェで一晩を明かした。
オープンスペースじゃなかったら絶対そこでにゃもってた自信がある。


というのが、今回の旅の顛末。
書けなかったイベントもいっぱいあるけど、
おおむね雰囲気はお伝えできたと思います。

オフ史上かつてないアウトドア率。
そのハードな行程。
アウさんに施されつづける虐待。
ゲストゾンリさんを、雨の中40分待たせ、さらに椅子で寝かせるというおもてなし。
たのしいおもいでばかりです。

是非またやりたいね!
 
アウさんの背中を僕が支え、その僕を鉄っちゃんが支えながら、長い階段を押し進む。
前の人を押し離すたびに、”ブースト切り離しだッ”とか言っちゃう。
今まで書いてこなかったが、今回の旅では、
長い階段においては大抵この連携体勢を用い乗り越えてきたのだ。
はたから見ると非常に残念な光景である。


そんな僕達の共同作業が再び繰り広げられるは佐世保市。
某ネルガル重工が栄える、日本の最西端長崎の中の更に最西端だ。

何故こんな所にいるのか。
誰かが、”そうだ。海に行こう”と言い出したからだ。
ホテルから近場で行ける海を探したらここに辿りついた、というわけなのである。
傍に水族館やらカヌー乗り場やら大掛かりな造船場(ここがネルガル重工のモチーフだったらしい)があったりと、見応えがある土地だ。

先程の3段ブーストをかけ…僕達は切り立った丘の上に出た。
茂る木々の間から蟹が這い出て、それを見て子供のようにはしゃぐ
ゾンリさん。
その無邪気な表情に、惹かれる女性も少なくはないだろう。
だが、アウさんは…ゾンリさんの表情がずっと笑顔なことに疑問を覚えていた。
ゾンリさんは、本当に…心から笑ってくれているのだろうか、と。

僕は、そういったアウさんならではの気遣いも理解できる。
人は、人の腹の内までは決して知ることはできない。
推し量ることはできても、解答を得ることはできない。

そもそも、ゾンリさんに人間としての意思があるかどうかですら、
僕達に証明する術はないのだ。
ゾンリさんは、哲学的ゾンビかもしれないのだ。


だが、この吸い込まれるような青空の下で、
無邪気に蟹とたわむれるゾンリさんの姿を見て…
彼の人間性を否定することができようか。
その感情が偽りであると断ずることができようか。

――ゾンリさんは、きっと本物の人間だと思う。
 
一言で言えば、長身痩躯。
余分な脂肪は一切見受けられず、首元から臀部まで非常に引き締まった印象を受ける。
常に笑顔を絶やさないその人を甘やかす面と、
細身だが柔らかなフェイスライン。
いい男だと――思う。

そして、そんな彼の股間の一物は、猛々しいほどに天に向かって反り返っており、
僕に決定的な敗北感を抱かせる。

「ゾンリさんの…おっきいね」
「ハッハッハ。通常形態の大きさを測るなんて無意味さ。男としての価値は、ここが本気を出した時の長さ…そうだろう?」

チョット待て。
それでまだ本気を出していないというのか。
僕は自分の一物がキャストオフした時の長さを思い起こし、
眼前のゾンリさんの名刀と比較するが…
どう贔屓目にみても、僕の本気を余裕で上回っている。

がっくりしたので、僕はとりあえずその辺にあった
アウさんの脂肪胸をもみしだくことにしたが、すぐさま
アウさんパンチが飛んできて事なきを得た。


しばらくして、お腹がすいたので御飯を食べようとホテルの外に出る。
ファミレスで、しばしの歓談。
ブログでは言えない裏の話をいろいろと交える。
要するに僕の私の黒歴史暴露トークが展開されたわけです。

その後、ぐったりしたアウさんを僕が背負ってホテルに戻る。
ちなみにアウさんは振動で余計にぐったりした。



ぞろぞろと部屋に戻ると、ゾンリさんは自分の縄張りを椅子にと決めたのか、どっしりと腰をおろし、肘掛を支店に頬杖をついた。
その後、ゾンリさん秘蔵の漫画やらイラスト集やらが公開され、
それを賞味させていただく。
ゾンリさんが自分の源流はギャグだって仰られてたのをようやく納得するに至る。

しばらく歓談していると、アウさんは老化が進行し、いつの間にか眠っていた。
額に肉の字を書くチャンスを伺いっていたが、そのたびに眼を覚まし、
猫のようにシャーッと威嚇するアウさん。

しばらくすると鉄っちゃんも就寝し、
自然とゾンリさんと一対一の形となる。

この後、明朝5時まで、僕達はひとにはいえない話をした。
 
雨の中、稲光のフラッシュバックに奴の影。

九州が誇るUMA(Unidentified Mysterious Animal)――ゾンリさんの姿がそこにはあった。
ハウステンボス正面ゲートで、我々3人の帰還を…待ち構えていたのだ。

今回、我々の目的はタカラッシュでの200万円奪取にあった。
だが、その裏でもう一つの計画が動いていたのだ。
それは、ゾンリさんという未確認生命体を確認すること。

その本人とこうして、雨のふりしきる中、我々は今、対峙しているのだ。

「おやおや、なんという様でしょう。
 ずぶ濡れで…なんとまぁ負け犬にふさわしい姿じゃありませんか!
 200万円という夢に縋り、結局辿りつけなかった亡者共よ!」

「違う!!俺達は200万円に辿りつけなかったチームじゃない!!
 200万円の解答を得るまでに至ったチームなんだよッ!!!」

「だが、その手に結局何も得られなかったではありませんか!!
 いえ…それどころか、既にスロットで5万円も吐き出したとか。
 この結果をもってすれば、あなた達が哀れな敗残者であることは、明白…!!!」

福岡の地より来訪した巨漢は、
天に演説するかのように大仰に両腕を広げ、哄笑する。
その巨体故に視線は高く、我々は自然とゾンリさんの顔を見上げる形になる。

「それにしても、この俺を40分も待たせるとは……
 どういう了見かね?40分もあれば、家でけいおんを視聴して
 ムギちゃんにちゅっちゅするには十分すぎるほどの時間…!!
 そんな貴重な時間を!こんな雨の中で俺に空費させたのだよ…
 皆さんは」

「ゴメンなさい。じゃあ一緒にお風呂入りましょう。」

「よかろう」

こうして我々とゾンリさんは裸で同じ浴槽につかり、
裸で語らう男の儀式を済ませた。
 
九州の鋭い日差しが肌を焼く中、
アウさんも、
鉄っちゃんも、
僕も、
ハウステンボス園内を駆けずり回った。

消費したペットボトルは何本か、もはや数えられない…
それほどに、滝のような汗をかき続けた。
両の足は刺すような痛みを訴え、諦めろと呼びかけた。
それでも、僕達は果敢にも宝を探し続けたのだ。

いくつもの謎を解いた。
地図を立体的に組み合わせるという発想…圧倒的閃き。
そこにたどり着いた瞬間、僕達は勝利を確信し、
喜び勇んでその地図が示す宝の場所へと赴いた。

だが、既にそこには、ほかの大勢のハイエナ共が大挙して押し寄せていた。

僕達の夏の宝探しは、こうして敗北を喫して終わった。
敗者を嬲るように、バケツをひっくり返したような激しい雨が、ごうごうと降り注ぎやがった。
ぐしゃぐしゃに濡れた回答を提出し、意気消沈とした顔で、
”おつかれさま”と皆に一声かける。
アウさんの眼は、死んだ魚のよう…いや、死んだ魚を見るような眼で、
虚空を睨んでいた。
もはや意識はここにはない、と言わんばかりに。
鉄っちゃんは、普段から鍛えていたおかげか、
さほど疲労の色は見えなかった。
だが、200万円という淡い希望を打ち砕かれた反動か、
声にいつもの張りは残っていなかった。

そして閉会式。
結局、200万円を獲得したのは――ただの中年主婦だった。
いや、それはあくまで見かけの話であって、
実はその一団はプロのトレジャーハンターらしく、
この後も沖縄に宝探しに行くとのたまわっていた。
更に、その宝の発見時間が、僕達に更なる虚無感を提供してくれた。
昼の12時過ぎ……つまり、僕達がまだ最初のキーワードを探していた時間なのだ。

要するに、僕達は、午後一杯かけて……既に見つけられてしまった宝を、
ありもしない200万円という幻想を、探し続けていたのだ。
アウさんは、また…
「イカサマ…ッ!!イカサマ…ッ!!」
と既に雨でぐしゃぐしゃになった顔を歪ませていた。
鉄っちゃんは、アンニュイな表情で、
打ち上げられた鰹の如く床ではねるアウさんを眺めていた。

こうして、タカラッシュという名の、欲望と裏切りが渦巻く宝探しは…
幕を閉じた。






だが、その裏で雨の中1時間近く待ち続けた男がいることを……
僕達はこの後知ることになる。
 
「こんな手にひっかかるなんて……バッカだよねぇぇぇアウさんは!!!」

「おまえ…まだこのゲームのからくりに気付いていないのか?」

「こげさん!!このゲームに勝つ方法がわかりましたよ!!皆で協力すればいいんです!!」

「タカラッシュグランプリ…このゲームには必勝法がある」

…などといった、ライアーゲームごっこを朝食バイキングの席で興じる20も半ばを超えたはずの一団があった。
僕達だ。
ちなみにそんなアウさん(29)と僕(25)を鉄クズさん(20)は白い眼で見ていた。
隣の席の幼女も、不審な眼で僕達の顔を覗いてきていた。


朝食を採り終えると、会場に向かい、様々手続きの後、
ゲームが始まった。

まず、第一の関門は、ハウステンボス内に散らばった
特定の文字列を集めるというもの。
しかし、園内は広く、とても3人では制限時間内に回りきれるものではない。
ここで、アウさんの戦略……いや、アウさんの正道をことごとく避けるべしという人生観が光った。

要するに、アウさんがとった行動は…敵チームとの情報の交換。
こちらが得た文字列の情報を渡す代わりに、こちらがまだ知りえていない文字列を敵チームからいただくというもの。
この戦略が功を奏し、ほとんど動かずに、必要な文字列が得られた。
まっとうに攻略していれば、とても間に合わなかっただろう。
人生の搦め手を知り尽くす男・アウさんの手腕を垣間見た瞬間であった。

もっとも、これは鉄クズさんが最初に足でいくつか文字を稼いでくれたから成り立った戦略であることも忘れてはいけない。
体力の鉄クズ、知略のアウ、指揮力のこげ。
この3者3様のスキルが絶妙に絡み合ってこその第一関門突破なのだ。


離れ小島の風車に座して待つ赤眼の海賊にキーワードを伝え、
第二ステージの地図を頂く。
その我々の姿を眼にした、未だキーワードを揃えられぬ敗残者共が
答えを教えてくれ、と群がってくる。
実に愉快だ。
この場で確実に開いた、答えを知るものとそうでないものの、格差。
哀れにも懇願する様に、僕とアウさんは失笑を漏らさずにはいられなかった。

もちろん教えてやってもこちらにはたいしたデメリットはないのだが、
そこは流石のアウさん。
条件をつけた。
それは、第二ステージでいくつか答えを得たら、
こちらに無条件で教えるというもの。
そのために、アウさんはその哀れな敗残者共に携帯の番号を教える。
ただ、鉄クズさんは、”そんな約束…守る奴がいるわけねぇだろ…!!人間は…金がかかったら一時の恩などたやすく忘れる…!!”
と言わんばかりの冷めた眼でアウさんを見ていた。
アウさんも、もちろんそれは重々承知だったが…
彼は、少しでも信じたかったのだろう…人間の義理・人情…
そういった不確かなものが、時に200万円という利に惑わされず
発揮されることが起こりうることを…!!!



だが、アウさんの携帯に電話がかかってくることは…
ついぞ無かった。
 
惰眠を貪るアウさんを揺り起こし、
ハウステンボスに入った鉄クズさんを迎えに行く。

正門ゲートを待ち合わせ場所に指定したのだが、
ここで我々の迂闊さが鉄クズさんに無駄な体力を消費させた。

互いに電話で、”正門ゲートに着いた”と言い張るのに、
どうにもこうにも出会う気配がない。
何故か。
簡単だ。
私とアウさんがハウステンボス正門ゲートと認識していた建造物は、
ただのホテルだったのだ。
よくよく考えてみれば、建物内にハウステンボス園内に続く道はなく、一階にあるのは大食堂のみ。
少し推理力を働かせてみれば、この建物が宿泊施設であることは明らかなのに、
固定観念が僕とアウさんの思考を縛っていたのだ。

「だから!!あのでっかい時計が壁に2つある凱旋門みたいな建物だよ!!それが正面ゲートだよ!!」
「アウさん、それはホテルです」

しかしながら、この鉄っちゃんの指摘で、我々の思い込みは瓦解し、
後に鉄クズさんに平謝りすることとなったのだ。

ほどなくして、鉄っちゃんが正門ゲートもとい只のホテルへ到着。
僕達は出会った。
これで、明日のイベントに参加する3名は揃った。
そこで、我々は万全を期すために、事前に園内を周遊し
土地勘を養っておこうと決め、夜間入園する運びとなったのである。

妙な奇声をあげ、諸手をあげて跳ね回る鉄クズさんと、
疲れ果てた老人のように足を引きずるアウさんが好対照だった。

そして、ハウステンボスが誇るオランダの家屋建築は、眼を見張るものがあった。
マップチップでこの建物をどうやったら再現できるだろうか…
と考えさせられ、実に刺激的だった。
景観を彩る風車はどうにかして再現してみたいなぁ。

概ね園内を見て回った後、
アウさんは、お土産屋でユーシャを思わせる全身鎧の置物を購入した。
僕は、帰りの飛行機の持ち物検査で、この鎧がチェックされ、
ついでにけいおんフィギュアも取り出され慌てふためくアウさんを想像し、ニヤニヤとしていた。

夜のしめくくりとして、僕達はマジックバーに赴いた。
いつの間にか観客が消えていくという不思議な光景を見つつも、
僕達は最後まで残り、演出された奇怪な幻想に酔った。
シメはいわゆる身体分断ショーだったのだが、
アウさんの推理では、実はあの助手の女の人がものすごい柔らかい体で、3段の箱が重なるわずかな隙間に身体を通していたということらしい。
凄い技術を持っているのは演者の男性と思わせておいて、
トリックの肝は助手にあるというのは、
奇術の基本である注意の操作にも通じていて、実に納得できるものである。

そして、帰りに盛大に迷い、我々に残された睡眠時間は殆どなかったという。

「ここが長崎…日本の最西端ですか…」
アウさんが、いつも通りの柔和な表情で辺りを見渡す。
空の上での不穏な空気は、影も形も見えなくなっていた。

ターミナルトでアウさんの長崎入りを記念して写真を取っていると、
目的地・ハウステンボスへの直行便が停止し、悠々と戸口を開けた。
慌てて乗り込む際、後ろに気配を感じたので振り返ると……
僕達のように、空港から乗り込もうとしているグループの姿がいくつか眼に入った。
「アウさん、奴等…」
「えぇ…。恐らく、明日の敵でしょうねぇ…。」

このレポートではまだ詳細に語ってはいなかったが、
今回の旅の目的の1つは、明日ハウステンボスで開かれる、「200万円争奪宝探しイベント」を制覇することにある。
参加人数は、1万人。
随分と大規模で気前のいいゲームだ。
おそらく、先程の搭乗者グループも、その参加者の一人だろう、と僕達はあたりをつけていたのだ。

気が付くと、
「ぉぃぉぃ、あいつらあんな装備で明日のゲームに参加するみたいだぜ!!」
「ヒャハハハ!!女子供の参加するイベントじゃねぇんだよ!!ザコは小便を垂れ流す前にお家に帰りな!!!」
という非常に失礼なアテレコを、僕達は名も知らぬ同乗者達に対してしていた。

さらにその後アウさんは、
「ほぉぅほぉぅ…これが九州ですか……随分と田舎ですねぇぇ……」
と、九州勢力を敵に回すような発言をしきりに繰り返していた。
もしこのバスに地元の方がいたら、
「東京モンが調子に乗っちょるけん、しめちゃれよ!!」という展開になること請け合いだったろう。
何の抵抗もできぬままサンドバッグになり、路上に投げ出されるアウさんが眼に浮かぶようだ。
しかし、そうはならなかったということは、おそらく、
このバスの乗客は全員外来の者。
すなわち、明日のイベント参加者という公算が大きい。
こういう大会系イベントの場合、
最後まで残るのは妙に物静かでおとなしそうな人間という定説を掲げた僕達は、
その手の人間に注意を払い、観察していた。
後で考えれば愚かしいというか、嘆かわしい話なのだが、
この時僕らが、世界の中心であることを疑いもなく信じきっていたのだった。


宿であるホテル日航ハウステンボスに到着。
かなり念入りに植林されており、ホテルの白亜の壁面に、樹木の緑が豊かに色を添えている。
陽光が注ぐ中、ホテルまでの斜面をのそのそと歩くアウさんの後姿は、
まるでビッグフットのようだった。

受付をすませ、僕達にあてがわれた部屋に向かう。
茶色を基調にした落ち着いた調子の部屋。
調度品も木製が中心で、なかなか温かみのある趣だ。悪くない。

事前に知っていた通り、ベッドは3つ。
窓側の2つはほぼ寄り添うように隣り合っており、
シャワー室側の1つとは、サイドテーブルを隔てて設置されている。
その隔離された1つをアウさんが選び、僕は中心の1つを選ぶ形になった。

そして、とりあえず夜の事前探索に向けて、2人共久々の深い眠りについた。
アウさんの寝顔は、疲弊しきっており、まるで冬眠するビッグフットのようだった。
 

カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

Copyright © [ タスケテ ] All rights reserved.
Special Template : 忍者ブログ de テンプレート
Special Thanks : 忍者ブログ
Commercial message : [PR]