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日本橋。
大阪の秋葉原と名高い、粗野にして旺盛な電気街である。
すれ違う人々の顔は、
この街に何かを期待するかのような物欲しげな顔、
同人グッズを買いあさり下卑た妄想に浸った顔、
…何にせよ、泥臭い欲望に満ち満ちている。

それに応えるかのように、店のラインナップも通常の街とは色を変えている。
たとえば、後で入ったゲームセンターなどは、その景品の全てが抱き枕や卑猥なフィギュアで、
清貧を旨とする僕やアウさんは思わず顔をしかめたほどだ。
「この街は、罪深いですね。愚かといっていい。ダメな街だ。」
事も無げに、吐き捨てた。


いつの間にか雨脚は遠のき、湿気た空気や濡れそぼった路上に痕跡を残すのみである。
そんな中、安っぽいフリルを目一杯あしらった、奇妙なエプロンドレスを纏った女達が、十字路を右往左往しながら、客引きをしているのが目に留まった。
雨が降りしきっていた頃からずっとチラシを配っていたのか、
裾がにわかに濡れている。
僕は風俗業というただれた職種は軽蔑していたので、
その眷属である、メイドという偽りの可愛さを振りまこうとしてなおかつ失敗している痛々しい連中に関わるのはご御免だったが、
大恩あるアウさんの欲求となれば致し方あるまいと、その一団に近づき、チラシをもらう。
手渡されたチラシはどれも明らかに安物で、なにやらキャラクターが印刷されているが、ほとんどかすれて判別がつかない。
ただ、その中の一つに記載された、【100円引き】という文字に、
僕は目を留めた。
「アウさん、ここ、100円引きですってよ!」
「いいですね。そこにしましょう!」
快諾するアウさん。
その様子を遠くから聞き耳立てていたのか、
その店のメイドが走り寄ってきて、案内を申し出る。
僕らは渡りに船と、お願いした。
こうして、この日、吉日、僕達のメイド喫茶体験学習は幕を開けたのである。



さて、ところで
ザルやカゴを細い棒で支えて仕掛ける罠――よく鳥を捕獲するさいに使うアレを皆様御存知だろうか。
あんな簡素で見え見えの罠に引っ掛かる獣を、
”知恵がない獣などこんなもの”、と僕達は嘲弄しますが……
しかし、そんな資格はもしかしたら、僕達にはないのかもしれません。
何故なら、その程度の仕掛けに、僕達もひっかかったのだから。
100円というエサに目を奪われ、すぐそばで手薬煉ひいているエプロンドレスのハンターの腐臭に、まったく気付かなかったのだから。
 
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