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第一のゲームの時に感じていた違和感の正体…それは、カードの枚数だ。
明らかに、少ないのだ。
52枚を7人で割ったら一人7~8枚になるはず。
…なのに、あのゲームでは、テーブルに配られた山の中に、ありえるはずのない6枚の山が存在したのだ。
…学生時代、毎日賭け大貧民をやっていたからか、カードのキズ、厚み…
…そういったわずかな差異には敏感なのだ。

つまり、意図的に枚数が減らされている。
カードセットから何枚か、メイドがあらかじめ抜いていたのだ。
何のために。
そんなの決まっている、2、8、JOKERといった強力な切り札を確保するためだ。

…メイドのエプロンドレスはひらひらとしたフリルといった禍々しい装飾が散りばめられ、
カードを隠しておく場所には不便しないだろう。
全員の手にカードが渡った後で、いけしゃあしゃあと、自分の手札に強豪カードを加えればいい。

…わかってみれば、単純な仕掛けだ。
思い出してみれば、学生時代にも、同じトリックを使ってきた奴がいたではないか。
ナゼもっと早く気付かなかったのか…改めて己の不覚に恥じ入るばかりだ。



だが、この第三のゲーム…今度は、目を皿のようにしてメイドから離さなかった。
そのせいか、カードをシャッフルしていたメイドは緊張したような面持ちで、そっとこちらから目を逸らしていた。
”不正は二度とさせない”そういう意図を込めて、刺すような視線を送る。
それが功を奏したのか、今度はカードの山には不審な点は見られない。
おそらくは、これで平の勝負になったはずだ。
これで、五分五分…今度は負けない。アウさん、らびっとさん、鉄っちゃん…それぞれに目で合図をし、
本気で敵の首を取りに行く、という覚悟を共有する。



ゲームは一進一退の攻防が繰り返された。
今度は僕や鉄っちゃんにもハイカードが集っており、すぐさま敵の手を切り伏せ、上がることができた。
だが、アウさんやらびっとさんはカードの揃いが悪いのかなかなか動けずにいた。

そして、ついに、アウさん・らびっとさん・メイドBの3人が残った。
既に場にはジョーカーが2枚、2が3枚、Aが3枚出ている。
ハイカードはほとんど無い。

そこで、メイドBがAで果敢に攻め、場が沸き立たせた。
メイドの手札は残り3枚。
…ここで退けば、最悪このまま8からの二枚出しで上がられる。

その時ふと、視界の端にアウさんの懊悩する顔が目に入った。
視線を落ち着き無く彷徨わせ、手札と敵の捨て札を交互に見やっている。
つまりは、迷う余地が…ある。切れる札が、あるのだ。
「アウさん、切れ…ッ。このままじゃ…終わるぞ…ッ。」
その表情が意味することを悟るや、すぐさま檄を飛ばした。

驚いた猫のように目を見開き、こっちを見ながら、おたおたするアウさん。
「…いいんですか?これで切られたらアウさんもうムリだよ!!」
大丈夫。既にジョーカーは2枚出ている。
アウさんの2が切られることは――有り得ない。


アウさんが、メイドのAの上に、渾身の力を込めて2を叩き付けた。
大丈夫。流れは掴んだ…勝てる。
そう確信した瞬間、アウさんの2の上に新たなカードが被せられた。
メイドが、切ってきたのだ。

そして、あれよあれよという間に、メイドは残りのカードを吐き出し…勝ち抜けた。



僕は目を白黒させた。
何故なら、メイドが切ったカードはJOKER。
既に場に2枚出ており、本来あるはずのない3枚目のJOKERだったのだ。
これ以上無い明らかなイカサマ。証拠も目の前にある。
だが、抗議の隙を与えるつもりもないのか、メイド共はわざとらしく勝利に沸いて、騒いでいる。
アウさんも、らびっとさんも、何が起こったのかわからないといった表情で、
目の前の捨て札の山を見ていた。
この状況は僕達の驕りが招いたのかもしれない。
もしこの状況を見越して、常にお守りとしてポケットにJOKERを仕込んでおけば…助かったのだ、僕達は。



そして、呆然とする僕達に、容赦無く罰が下される。
「それじゃあ、負けたご主人様達にお願いですぅ。私達に何かおごってくださいぃ。」
…正直、何だその程度でいいのか。と思った。
この店のメニューなら3人に奢っても3000円いくかいかないかだろう。

それが、何と希望に満ち溢れた解釈だったのかと、僕達はすぐに知ることになる。
「あ、でもぉ。メイドの場合特別料金でぇ、一人4000円プラスされるんですぅ。」
お前達はいますぐ窓から落ちろ。
お願いします。落ちてください。
何の罪悪感も交じらぬ笑顔で、平然とそんな戯言を抜かしやがる生き物がそこにはいた。

黄色い声でさえずりながら、メイド共が顔を合わせてメニューを選ぶ。
私これがいいなー、と遠慮も無くよりによって高額の品を頼む。
そこで切って返すように言ったのはアウさんだった。
「すみませんが、一番安いヤツで我慢してくれませんかねぇ…?」
男らしい一言だった。
……わずかだが、僕達は一矢報いた気がした。


メイドどもが貪り食っている間に、入り口付近で会計が行われていた。
とりあえず、らびっとさんが代表して払うことになり、僕達はまだソファーに腰をおろしていた。
「では…お会計32000円ですぅ」

!?

少年マガジンばりに、僕達の脳裏に、エクスクラメーションマークとクエスチョンマークが乱舞した。
空耳か、聞き間違えかと疑いながら、勢い良く首を回転させ、入り口の方に目を向けた。
…一体どんな計算したら、20分で32000円にも至るのか。
らびっとさんは実際にちゃんと…諭吉を3枚財布から出していた…。
もし、僕達の中の誰か一人でもメイド喫茶の相場を知っていれば、この事態が異常であることに気付いただろう。
だが、悲劇的なことに、誰もいなかったのだ。
だから、メイド喫茶って…こんなもんなんだ…と、無理矢理、自分の中の疑問と恐怖をねじ伏せるように、納得するしかなかった。


帰りのエレベーターが閉まる瞬間。メイド達が整列して言い放った。
「では、ご主人様、行ってらっしゃいませぇ」
僕は苦々しい表情を浮かべながら、手を振った。
扉が閉まる瞬間…隣のらびっとさんは、
「二度と来るか…ッ」
…呻くようにつぶやいていた。殺意の咆哮だった。






閑話休題…というかオチ。

オフが終わってから、ネットで調べた所…
僕達が入ったメイド喫茶は、”日本メイド喫茶ランキングワースト1”という称号を持ち、
専用スレがいくつも立っている悪名高い店だったことが判明した。
大貧民がどうこうではなく…僕達は、この店を選んだ時点で、既に最悪のヒキだったということである。
 
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